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2022年6月19日、それはケビン山崎にとっては特別な日だった。ケビンが5年の歳月をかけてトレーニングを担当してきたK-1ファイター武尊選手が那須川天心選手と闘った世紀の大一戦があった日だ。
そして、時同じくして、東京オリンピックレスリング女子フリースタイル53kg級金メダリスト 志土地(向田)真優選手(現在55㎏級、所属:ジェイテクト)もオリンピックレースがこの日始まった。
選手を支える立場として彼は、どんな気持ちでその時を迎えたのだろう?
「勝ち負けだけではなく、これまでやってきたことの答え合わせになる瞬間だから、人一倍緊張する」というケビン。
そして、こうも言っていた。「選手を一番遠くに感じる日でもある。」と。
なぜなら、試合中は選手の姿をただただ、外から見るだけ。それしかできないから。
今回もそうだった、朝から立て続けに試合があった志土地選手。一つ一つの試合を勝ち続け、優勝の座につく。
そこで終わりではなく、世界大会に出場する枠をかけて最後の最後にもう1試合プレーオフがある。
一瞬の気も抜けないまま時間が過ぎる。怪我や調子がでなかった時の彼女を支えてきた一人でもあるケビンは、一試合一試合、丁寧に答え合わせをしていた。志土地選手の強さは安定しており、激戦を全て勝利で勝ち取るという驚異的な成績で締めくくれた。その時のケビンの安堵感は我々が到底想像できるものではない。
そして次は、武尊選手。
勝って欲しい気持ち。極限の精神状態から解放してあげたい気持ち。そんな複雑な思いを胸に、取り組んできたことへの答え合わせが始まる。
選手にとって一番苦しいのは試合中ではなく、それまでのトレーニングを含む準備期間だという。その期間を一緒に背負えるのがパーソナル・トレーナーでもある。勿論実働は選手がするわけで、パンチやキック、タックルに至るまで、トレーナーが同じことをするというのとは意味が違うが、「もっとこうなりたい」「ここを改善したい」を形にすることで、選手の一番近くにいて、解決方法を提案することができる唯一の存在でもあるからだ。
その提案が正しかったのか? ひとつひとつを答え合わせするのは、二つの理由がある。
一つは、これからの彼ら選手にとっての「進化」に責任を持つため。そしてもう一つは、結果が残せなかった時、責任を振り分けてもらい、彼らの心の負担を軽減するためだ。
パーソナル・トレーナーを目指す若者たちは、いつかトップアスリートのトレーニングに携わりたい。そう思う人も多いだろう。憧れはその氷山の一角である華やかな部分に目が行きがちだが、本質はどれだけ選手と一緒にその時を耐え、前進できるか、ということなのかもしれない。
一流のトレーナーの影の姿を見てそんな風に感じた。
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